外塀の小窓や筆文字サインがシブい。三田の街を見守ってきた秀和
本建物は地域の再開発のためにすでに取り壊されていますが、アーカイブとして残しています。
超都心、三田の聖坂にある秀和レジデンス
三田駅から三田通りを超え、聖坂の中腹に佇む、秀和三田聖坂レジデンス。
1969年築・総戸数73戸の秀和です。
由緒ある港区の高台という立地に加え、
セットバックされた建物や余裕のあるアプローチなど他のマンションとは違う風格が漂っています。
賑やかな駅前から秀和がある聖坂方面にくると、一変して静かな環境になります。
坂の上に建っているので、再開発が始まる以前は東側からビル群を見渡すことができました。
ゆるやかなアプローチが上品
アプローチにはレンガの土台にアイアンを組み合わせた門柱がお出迎え。
アイアンを連ねたフレームの支柱には照明が飾り付けられ、アーチにはS字のアイアンが上下に飾り付けられ、柔らかく美しい曲線美を描いています。アプローチタイルは円状型ではないけれども、外扉やアイアンの装飾など凝ったディテールを散りばめた雰囲気から60年代の秀和らしいなと感じます。
美しい植栽を背景に掲げられたサインは筆文字タイプ。よく見ると聖坂の「聖」が旧自体ですね。
力強い印象の字体とあわさってシブさに磨きがかかっています。
エントランスまではスロープと階段で下って行くという珍しいかたち。
階段に沿って、青瓦を載せたラフウォールも段々状に下がっていくのが何だか可愛いです。エントランス横の、煉瓦で囲まれた美しい植栽とアイアンの装飾もポイント。壁から天井へ伸びるようなアイアンのアーチと柵の組み合わせが見事で、劇場の幕のようにも見えます。
正面から見るとまるで並んだアイアンの柵が、手を繋いでカーテンコールをしているかのよう。
駐車場に面した側の外塀は一部がくり抜かれて、秀和らしいハート型の美しいモチーフが顔をのぞかせて並んでいます。ちなみに北側に面した敷地の外塀には、波模様の入った透かしブロックが入っています。チョイスがまた渋くて良いですよね。
バルコニーのアイアン、透けた柵の奥に見える窓と白いラフウォールの組み合わせの雰囲気が優雅で素敵で、正面に立って見上げたくなります。見上げると上にちょこんと乗っているように見える淡めブルーの青屋根がまたイイです。
由緒ある立地に佇む小さな秀和レジデンス
立地は、三田駅から徒歩7分の場所にあり、駅前はビジネスマンや大学生が多く賑やかな感じ。
桜田通りにでれば東京タワーがどーんと大きく見えます。ここからは東京タワーが通りの中心に建っているように見えるんです。高輪の伊皿子の交差点から三田通り迄の間にあり、江戸時代から交通の要所であった聖坂からは、自転車があれば、麻布十番、六本木にも気軽に行ける距離なのも良いです。
良いんですが・・・。
じつは、この秀和三田聖坂レジデンスは残念ながら、三田3丁目の再開発の関係で2023年7月末に解体が決まっています。隣の「ウインザーハイム三田」や「蟻鱒鳶ル」も同じく解体され、今後この一帯は「三田三・四丁目地区第一種市街地再開発事業 住宅棟」の一部になるそうです。この街の新たな発展に伴っての名誉ある幕引きですが、街の歴史とともに歩んできた秀和がなくなるのは、やっぱりちょっと寂しいですね。
約54年に渡って移りゆく三田の街とともに歩んできた、ちょっと渋めで愛らしい秀和レジデンスです。